2015年3月30日月曜日

3月6日舛添都知事定例記者会見についての稲葉奈々子准教授のコメント

稲葉奈々子准教授(茨城大学)から、舛添都知事記者会見についてのコメントをメールでいただいたので、ご本人の許諾を得てアップします。

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都知事の見解のうち、以下の2つの点を取り上げたいと思います。(1)稲葉が実施した調査は回収率が低い、都が実施した調査は回収率が高い。(2)自分は忙しいからいちいち個々の人に会うことはできない。

(1)について:研究者が実施するほとんどの郵送アンケートの回収率は2~3割です。25%をもって回収率が低いから信用できないということになったら、世の中のほとんどの研究は信用できないということになってしまいます。また、私が用いた調査票は意見分布を忠実に反映するように設計されていますが、都の意向調査にはその点で致命的な欠陥があります。すなわち、都の調査票には移転したくないという選択肢がなく、その意味で「移転したいか否か」に関する住民の意見を反映するものとなっていません。

 (2)について:研究者は、国勢調査のような強制力を持つわけではないため、母集団(住民全体)の選択、および回収サンプル(回答してくれた人)の偏りを様々な方法で補正します。私の調査では、全戸に投函した点で母集団の偏りはありません。調査票がすべて回収されるわけではないことを想定して、回収分の偏りを補正するべく何度もアパートに通い、住民に話をきくなどして質的な情報を集め、意見分布の妥当性を判断しています。都知事は、いちいち個々の人に会っている時間はないと会見で述べ、意向調査の結果のみに依拠して議論されています。その意味でも、知事が持っている情報の精度が、私の情報より高いものとは到底いえません。

こうした手続きを踏んでいること、質的な情報を加味してもアンケート結果が全体の意向と大きく違わないと考えられることから、調査結果を公表しています。都知事は、ご自身が研究者だったから自信たっぷりに述べておられるように思われますが、研究者時代にきちんと社会調査をなさった経験があるのでしょうか。また、業績の上でもきちんとした世論調査の分析をなさったことはなく、教科書的なレベルの知識で調査を批判されているようにみえます。少なくとも、都の意向調査と比較した際、上記の理由により私の調査のほうがはるかに精度が高いデータを得ています。

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稲葉奈々子研究室によるアンケート(実施2013年6月~) http://tinyurl.com/qzgavop
知事定例記者会見(3月6日) http://goo.gl/b4JUNF 当該抜粋部分は<もっと読む>以下


平成27年3月6日(金曜)知事定例記者会見より抜粋

【記者】フリーの記者の永尾と申します。すいません。都営の霞ヶ丘アパートの移転の問題について伺いたいんですけれども、今年の1月13日のですね、定例記者会見で、私がほとんどの住民の方は移転したくないというふうにご指摘申し上げたんですが、その時の知事は、逆にほとんどの住民の方が、早く新しいところに引っ越したいと聞いているというふうにおっしゃって、私に上がっている報告が正しいのか確認してみますというふうにおっしゃってですね、私のほうにも疑義があれば、もう一回調査してもらいたいというふうなことはおっしゃったんですね。そこで、私はですね、都市整備局に確認いたしましたところ、住民の方にですね、複数の選択肢、どのアパートがありますというふうなことを示して、意向調査をやったと。その結果をほとんどの住民の方が出したということで、それがほとんどの人が移転希望だというふうに知事には伝わっているんじゃないかなというふうに思ったんですね。しかし、その調査にはですね、移転したくないという選択肢はありませんで、どっかを選ぶということしかなかったんですね。
 他方でですね、茨城大学の稲葉奈々子准教授という社会学の先生が、昨年、住民のアンケート調査を行いまして、それでは回答のあった43世帯中34世帯がこのまま霞ヶ丘アパートで暮らしたいというふうに答えていると。それから、先週の2月25日の水曜日に、90歳近い方を含む住民の方がですね、都庁に来て、知事の秘書にふるさとを壊さないでほしいとかですね、人の住んでいる町を簡単になくすのは納得できないというふうに訴えて、知事に直接、住民の声を生で、生の声を聞いてほしいというふうにご要請されたんですね。
 そこで伺いたいのが、知事のですね、ご確認の結果がどうだったかということと、それからこのような住民の声、生の声を聞いてほしいという要望に対して、どういうふうにお応えになるかということなんですが。

【知事】まず第一点ですけれど、あなたが引用した茨城大学の稲葉准教授のアンケート調査は、今43(世帯)ということは、回収率が25.6%だということですから、回収率が25%のアンケートというのをまずどう考えるかということで、8割、9割が回答したというならば良いのですけれども、4人に1人です。このことは、私は学者としてもいろいろなアンケート調査の分析をしたりしますけれど、25.6という回収率は極めて低いというのが一つ。
 それから、東京都の担当の説明だと、139世帯中136世帯の移転先、どこに移転しますかというのを確認して、先ほどおっしゃったように、行かないということがないではないかということはですね、移転先未定と回答した人が1世帯、それから、意向が把握できないのは2世帯で、139の世帯のうちの136は移転先を言って、神宮前が109、若松町が19、百人町は7、その他の都住が14という数字があったということですから、それは調査の結果だということであります。
 いろいろな都市整備をやったり、木造密集の話をやっても、皆さん会いに来たいといろいろな方が来られます。私は、体一つですから、これだけものすごい仕事をやっている中で、誰かにだけ会うというのはほとんど不可能に近いです。ですから、そのために各局がいるので、しっかり丁寧に要望を聞いて、丁寧に対応して、その結果を知らせるということをやっておりますので、そういう形で対応したいと思っております。